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ABSC設立に向けて

日本書籍出版協会理事長/AB委員会委員長/河出書房新社代表取締役 小野寺 優

2021年12月9日開催「JPRO/Books新企画 説明会 ~読書バリアフリー法・著作権法改正への対応施策~」でのご挨拶

 日本書籍出版協会 理事長の小野寺と申します。
 私からはJPOのアクセシブル・ブックス・サポートセンター準備会(ABSC準備会)の委員であるとともに、書協のアクセシブル・ブックス委員会(AB委員会)の委員長を務めている立場から、JPOのABSC準備会の現状と展望についてご報告いたします。

 現在、ABSC準備会は、書協のAB委員とともに、ABSCの検討を進める上で必要な方々に広く参加していただく座組みで進められています。近い将来、準備会の次の段階となるサポートセンター立ち上げ後のABSC運営会議(仮称)においても、書協で決定すべき事項などがある場合には、その都度、ABSC運営会議参加者の意見を取り込みながら、書協委員の意見を集約して決定を行うという仕組みにしたいと考えています。ですから書協委員のメンバーは、変更は可能ですが基本的には固定し、そのほかの参加者は必要に応じて幅広くご参加いただくといった風に、流動的になると思います。

 ご存知の通り、すでに11月1日付でABSCとの連絡窓口設定のお願い状を、JPROデータ提供出版者に向けて、ウェブおよびプリントで送付いたしております。宛先不明が113通ありましたが、約2,100社への通知が成されたことになります。お願い状では一応、返信締切日を設けましたが、これはあくまでもひとつの区切りとして設定したもので、今後も継続的に連絡窓口設定をお願いしてゆかねばならないと考えています。

 幸いいくつかの出版者から質問をいただきましたので、本日はそれらを含め、これまでの経緯において、聞こえてきた疑問にお答えすることによって、ABSCの今後の展開についてご説明申し上げます。

 まず、出版者からの質問のうち多かったのは「ABSCは具体的に何をするのか」というものと、「連絡窓口を設けたとして、出版者は何をしたらいいのか」というものでした。

 ABSC準備会は、まず各出版者にウェブと小冊子でアクセシブルブックスに関するレポートを発信、送付するところから活動をスタートさせます。レポートには、本日の私の説明、出版者の先行事例のインタビューや資料、参考となるウェブや図書の紹介などを掲載する予定です。つまり、アクセシブル・ブックスに関係する情報提供から始めるわけです。各出版者にはその情報についてできる限り社内共有をお願いしたいと存じます。

 ABSC準備会からABSC設立までどれくらいかかるか、期間についてはまだはっきりと申し上げられないのですが、ABSCは、障害者団体やボランティアに対し、「本の総合カタログ」としてJPROが一般ユーザー向けに公開しているBooksの紹介と利用促進を行い、一方で障害者団体やボランティアからのBooks改修作業に対する意見や注文の反映を進めたいと思います。現在Booksのデータの元になるJPROには、底本データ以外に、電子版、オンデマンド版、オーディオブックの有無、判型違いの存在等についても表示する予定ですが、更にアクセシビリティについての情報、例えばTTS(音声読み上げ機能)に対応するか否か、テキストデータ提供の可否表示なども付与・追加していく改修を行いたいと考えています。またBooksそのものもアクセシビリティに対応しなくてはなりません。これらのアクセシビリティに関する情報が、Booksを通じて障害者団体やボランティアの方々に活用されれば、出版者の個別対応の負担を大幅に減らすことにつながります。とはいえ、この改修作業は当然、各出版者の協力なくしては進みません。この情報の橋渡しもABSCの果たすべき役割です。

 さらにABSCでは、当面、個人と出版者を直接的につなぐのではなく、障害者団体やボランティアを通じて寄せられる「そのままでは読めないけれど、各社の出版物をなんとかして読みたい、という声に応じられないか」という相談に、出版界の第一次窓口として対応したいと思います。その上で、各出版者に連絡が必要である場合に限り、各出版者の連絡窓口担当者にご連絡して対応を相談することといたします。ABSCが一次窓口として機能することによって各出版者が個別対応するよりも時間や労力が軽減され、またその対応によって生じる金銭的負担も軽減させることができると考えています。

 一方で不安や懸念の声が多いのが、テキスト提供についてです。「読書バリアフリー法」では、アクセシブルな書籍等を制作する、登録された制作者に対して、出版者からのテキストデータ提供の促進を求めており(著作権法施行令第2条第1項第2号)、これに対して不安や懸念をお持ちの方が多くいらっしゃいます。著者の大切な著作物を守るという責任、提供したデータが目的外に流用されてしまう危険、などを鑑みると、出版者として慎重になるのは当然のことです。しかし、この「テキストデータ提供の促進」はあくまで「国に対して」求めているのであり、出版者に法的な義務として課しているわけではありません。当然のことながらABSCも出版者に提供を強いるための組織ではありません。ですから、「読書バリアフリー法への対応を考える」=「テキスト提供をしなくてはならない」ということではありません。それはあくまで各社が自主判断すべきことです。敢えて申し上げるならば、「障害者団体などからの要望を受け、テキストを提供しても良いとお考えの社が、安心して提供できる環境を、障害者団体などと協力して作っていく」のがABSCの役割なのだと思います。

 社会的にもバリアフリー化の流れは確実に加速しており、出版界の対社会的なコンプライアンスの面からもそれに対応していかねばなりません。その判断が前提となってABSCの設立は進められています。各出版者の対応がさまざまな理由からすぐに進まないような時、仮に善意からの圧力のようなものがあった時も、ABSCが緩衝役、防波堤の役割を果たせるようにしたいと思います。そして、皆さんのご意見も十分聞きつつ、決して焦らず、慎重に、できることから少しずつ進めていこうと考えております。

 まだまだ明解ではないところもありますが、ABSC設立の目的、役割について皆様のご理解を賜りますようお願いし、私からのご報告といたします。